夢幻樹
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卒塔婆(そとば) 重之の場合
2014-04-15-Tue  CATEGORY: 卒塔婆(そとば)
 ホラー劇場 第五回

 俺はセミと一緒に墓場に向かった。

 セミというのは、あいつの名前じゃなく愛称だ。

 いや、愛称と言っていいのかどうかわからない。

 何せ、ちょっかいをかけると、直ぐにミンミンと泣くからセミと名付けたわけで、その呼び名に親しみがあったのは俺と裕司と修の三人だけだったのだから。

 俺とセミは、例の暴行を起こしたと思わしき場所に辿り着いた。

 たくさんの墓石が立ち並んでいる。周りに人は見当たらない。

「たしか、この辺だったよね?」

 俺には、ここが本当に、あの時の場所だったのかどうか思い出せない。

 墓はどれも同じに見える。

 俺が返事に困っていると、セミが確信したように一人で肯いた。

「確かに、ここだった。ほら、これを見て。僕が鼻血を出した痕が残ってる」

 セミが地面にこびりついている黒い染みを指した。

「うわー。マジかよ。俺達、お前にめちゃくちゃ酷いことをしてたんだな……」

 俺は気持ちが悪くなって、吐きそうになるのを抑えながら、首を横に振った。

「あれ……? 卒塔婆(そとば)が無い」

 セミは墓を見渡しながら残念そうな声をあげた。

「なあ、卒塔婆ってなんだよ?」

 俺は聞きなれない言葉に首を傾げた。

「ほら、重之(しげゆき)くん達が振り回していた板のことだよ。あれは、お供え用の大事な板なんだよ」

 知らなかった。

 あの板は殴るのに調度いいから振り回していただけで……。

 俺達は、とんでもないことをしていたのだと、改めて痛感した。

「卒塔婆ってやつが無いのなら、どうやって元に戻せばいいんだ」

 そんなことをセミに訊ねても仕方ない。

 わかっているのに、俺は問いかけていた。

 なんでもいいから、今は何かにすがりつかなければ、この恐怖心は払拭できないと思ったからだ。

「和尚さんに聞いてみよう。なんとかしてくれるかも知れない」

 俺は、やけに協力的なセミの発言に驚いた。

「お前、どうして俺にそこまでしてくれるんだ?」

 問いかけるとセミは、薄ら笑いを浮かべた。

「だって、僕をいじめた奴等が全員死んでしまったら、僕が殺人犯と疑われちゃうじゃないか。……そんなの……いやだよ」


 次回へ続く


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卒塔婆(そとば) 僕の場合2
2014-04-15-Tue  CATEGORY: 卒塔婆(そとば)
 ホラー劇場 第四回


 僕は渋々と音声を再生した。

「今、変な女に追いかけられて……、た、助けてくれ! 俺は何を戻せば……」

 これは修の声だ。僕が聞いていると、ザザーと電波が入った。

「元に戻せ……」

 これは女性の声だろうか。

 プツン。そこで電話が途切れた。

「おい、何を聞いた? 女の声が入っていなかったか?」

 重之が青ざめた顔で僕に問う。

「お前、心当たりが無いか? 俺達が恨まれるような……心当たりが」

 僕は面倒事に巻き込まれるのはゴメンなので、適当な返事をした。

「女の人をいじめたことがあるんじゃないの?」

 すると、重之は首を横に振った。

「俺達は、女に手をあげたことは一度も無い。それに、酷いことをしたのは、お前に対してだけだ」

 重之はグシャグシャと髪をかきむしり、乱暴に椅子へ腰かけた。

「それに、元に戻せと言われても、俺達は物を盗んだことは一度もない」

 重之はきっぱりと言い切った。

「じゃあ、物を壊したことは?」

 僕が訊ねると、重之はハッとしたように顔をあげた。

「そういえば……。俺達、最近、お前を墓に呼び出して、そこに備えてあった板でお前を殴ったよな……」

 そういえば、そんなこともあったな。

 あの時は本当に怖かった。夜の墓場に呼び出されたのも不気味だったし、無限に続くかと思われた暴行も恐ろしかった。

今、思い出しただけでも身震いがする。

 僕が何も言わずに黙っていると、重之は顔を机に突っ伏した。

「ヤベェ……。次に殺されるのは、俺の番かも知れねぇ」

 きっと僕は、重之がいなくなっても、辛いとか悲しいとか感じないだろう。

 だけど、ここで何もしないで、ただ重之が殺されるのを待つなんて、それでは鬼畜以外の何者でもない。

 僕は虫けら扱いをされたけれど、魂まで外道になるつもりはない。

 面倒事はごめんだけど、今、彼を放っておいた方が、後々が面倒な気がしてならない。

「あのさ……。もう僕をいじめないと約束してくれるなら、一緒に墓に行ってもいいけど……」

「えっ? なんだって?」

「だから、僕が一緒に墓に行ってもいいよ、って言っているんだ。一人じゃ、怖いだろうから」

「べ、別に怖くは無いけど、お前が一緒に行ってくれるのは、ちょっとありがたいかも知れないな」

 重之は気恥かしそうに、頭を掻きながら肯いた。


 次回へ続く

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卒塔婆(そとば) 僕の場合
2014-04-15-Tue  CATEGORY: 卒塔婆(そとば)
 ホラー劇場 第三回


 裕司(ゆうじ)が亡くなった二日後に、全校集会が開かれた。

 校長は額に汗を浮かべてハンカチで拭っていた。

「訃報(ふほう)をお伝えします。昨夜、成田修(なりた・しゅう)君が亡くなりました」

 ざわざわ。生徒達がどよめいた。

 僕は、心の底から笑みを浮かべていた。

 何故かはわからない。けれど、僕をいじめた奴等がことごとく亡くなっている。こんなに痛快なことがあるだろうか。

 別に、僕が彼等の死を望んでいたわけじゃない。

 けれど、天罰は下ったのだ。



 教室に戻ると、重之(しげゆき)が青ざめた顔で僕を見た。

「おい。お前、俺達を呪っただろ!」

 いつもは僕が怯えさせられている側だが、この時は、まるで立場が逆転していた。

「別に呪っていない。ただ、天罰が下っただけだと思う」

「修の死体。裕司の時と同じように、首と胴体が切断された状態で見つかったんだと。あいつのおふくろさんが話してた」

「えっ? く、首が切断!?」

「あれは、人間の仕業なんかじゃない。それに、こいつが何よりの証拠だ」

 僕が目を見開くと、重之は携帯を投げつけてきた。

 ゴチッ。

僕は急な出来事に対応できず、投げられた携帯が肘に当たった。

「その携帯で、一四一六にかけてみろ」

「なんで?」

「いいから、かけろ!」

 重之に怒鳴られた僕は、嫌々ながらも一四一六に電話をかけた。

「こちら留守番電話サービスです。現在、お預かりしているメッセージは一件。再生する場合は一を……」

「留守番電話サービスだって」

 僕が切ろうとすると、重之は怒鳴りつけてきた。

「再生しろ!」

 僕は渋々と音声を再生した。

「今、変な女に追いかけられて……、た、助けてくれ! 俺は何を戻せば……」

 これは修の声だ。僕が聞いていると、ザザーと電波が入った。


 次回へ続く


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卒塔婆(そとば) 修(しゅう)の場合
2014-04-15-Tue  CATEGORY: 卒塔婆(そとば)
 ホラー劇場 第二回


 俺は重之(しげゆき)と一緒に、裕司(ゆうじ)の家に向かった。

 通夜に出た俺達は、棺の中を覗いて驚愕した。

 何故なら、裕司の首が胴体と切り離されて棺の中に眠っていたからだ。

 一見、綺麗に繋がっているように思えたが、よく見ると一直線にスッパリと切れているのがわかる。

 俺は裕司の母親に聞こえないよう、小さな声で重之に囁いた。

「おい、見たか? 裕司の首」

「首? なんのことだよ」
 重之が訝(いぶか)しげな顔で俺に問う。

「首と胴体が離れていただろ」

「マジで!?」

 重之が大きな声をあげたので、俺は自分の手で彼の口を塞いだ。



 通夜の帰り際、俺達は裕司の母親に彼が亡くなった経緯(いきさつ)を訊ねた。

「あなた達も見たのね。裕司の首が切れているのを」

 母親はハンカチで口を押さえながら、大粒の涙を零した。

「おばさん。裕司がどうして、あんな姿になったのかわかりますか?」

 俺が問うと、母親は首を横に振った。

「わからないの。裕司が塾の帰り道に、首と胴体が離れた状態で見つかったと、警察の方から聞いて……」

 そこまで言うと母親は、わっと泣き出してしまった。

 これ以上、彼女に話を聞くのは難しいだろう。

 俺は、重之と一緒に、裕司の家を後にした。




「じゃあ、ここで別れよう」

 T字路に差し掛かり、俺と重之は別れた。

 一人になった俺は、首筋にひんやりとしたものを感じた。

 そのあと、生暖かい風が吹いて、なんとなく気分が悪くなった。

「元に戻せ……」

 見知らぬ女性の声が耳許で囁いた。

「わっ!」

 驚いて辺りを見渡したが、近くには誰もいない。

 俺は怖くなって走り出した。

 女性の声は、尚も俺の耳許で囁く。

「元に戻せ……」

 なんのことだかわからない俺は、怖くなって重之に電話した。

 携帯電話の呼び鈴が鳴り響く。

 やがて、「ただいま電話に出ることは出来ません。ピーと言う発信音の後に、お名前とご用件を……」とガイド音声が流れた。

 どうして電話に出ないんだよ!

 俺は発信音の後に、メッセージを入れた。

「今、変な女に追いかけられて……、た、助けてくれ! 俺は何を戻せば……」

 最後まで伝える前に、俺は携帯電話を地面に落とした。

 首筋に激痛を感じた後、俺の意識は途絶えてしまったからだ。


 次回へ続く


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卒塔婆(そとば) プロローグ
2014-04-15-Tue  CATEGORY: 卒塔婆(そとば)
 ホラー劇場 第一回


 プロローグ



 夏休みに入る二週間前の柳沢(やなぎさわ)中学校。

 クラスメイトの裕司(ゆうじ)が亡くなったと、本日の朝礼で知った。

「黙祷(もくとう)」

 校長の合図で、僕は瞳を閉じて、彼の冥福を祈った。

 裕司と僕は親しい間柄ではなかったため、涙は出なかった。

 むしろその逆で、僕は彼を厭(いと)わしく思っていた。

 それは何故かと問われたら、彼は僕のことを虫けら同然に扱い、よく暴力を振っていたからだ。



 朝礼が終わり、教室に戻ると、裕司と親しかった修(しゅう)が、目を赤く腫らして泣いていた。

「あんなにいいやつが、どうして死ななくちゃならないんだ」

 修を慰めるように、重之(しげゆき)が彼の背中を擦っていた。

「泣くなよ。俺だって泣きたいけど、我慢してるんだ」



 彼等のやりとりを見ていた僕は、なんとも言えない気持ちに襲われた。

 彼等は、僕に対して毎日のように、からかったり、殴ったりと繰り返していた。彼等は、血も涙も無い外道だと思っていた。

 なのに、仲間が死ぬと、こんなにも弱くなり、脆(もろ)さを見せるのか。

 背中を小さく丸めて机に伏せている修は、僕となんら変わりのない普通の人間のように思えた。

 だからと言って、僕は彼等を許す気は無いし、仲良くしたいとも思わない。



 僕と目があった重之は、凄みを利かせて睨みつけてきた。

「じろじろ見てンじゃねーよ」

 僕は何も言い返さず、顔を背けた。

 次回へ続く


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