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LOVE LETTER(短編小説)
2013-09-16-Mon  CATEGORY: 短編小説
 桜が満開の入学式。
 張り出された掲示板の学年表を調べて、自分のクラスは1年A組だと解った。
 けれど、方向音痴な私は、教室がどこにあるのか解らなくて、校内を彷徨っていた。
 ポロン。ポロロン。
 ふいに音楽室からピアノの音色が鳴り響き、私は足を止めて、そっと中を除き込むと、グランドピアノの前に少年が一人で座って演奏していた。
 細長い指先をしてはいるが、肩幅が広くて身長も平均並みの高さをしており、開けられた窓から風が吹くと、少年の髪は光を集めてキラキラと光った。
 まるで、幻想の中にいるような錯覚に襲われて、私は慌てて首を横に降り、現実世界へ引き戻る。

「君、そこで何をしているの?」

 急に、彼が問いかけて来た。
 私は慌てて身だしなみを整えて、にっこりと笑ってみせた。
 とは言っても、緊張をしているせいで、ぎこちない笑い方しか出来なかったけれど。

「私、1年A組の平松綾音(ひらまつ あやね)です。その、教室が解らなくて……道に迷ってしまったみたいで……」

 すると少年は演奏を止めて、私の側まで歩いてくると、そっと手を差し伸べた。

「僕は、2年C組の村田一(むらた はじめ)。良かったら、教室まで案内するよ」

 彼は、丁寧に教室まで案内してくれた。
 私は、彼が握ってくれた手の感触をずっと忘れない。
 長く綺麗な指先と、私よりも大きくて頼もしい手。
 この温もりを、私は忘れない。

 * * *

 それから私は、彼が合唱部に所属しているのを知り、合唱部への入部届を顧問の先生に提出した。

「ごめんなさい。今は人が一杯で、空いてる席が無いのよ」

 * * *

 仕方なく私は、陸上部に入り、グラウンドから彼が演奏するピアノの音色を聴くのを日課にしていた。

 やがて、春が過ぎ、夏が過ぎ、秋に差しかかった時、彼はピアノの全国コンクールに優勝し、本格的にドイツでピアノを習うことになった。

 私は彼とあまり会話が出来ないまま、離れてゆく彼を思い、少しでも希望を持ちたくてラブレターを書いた。
 書いては消して、書いては消して……。
 私の想いが溢れたラブレターが、やっとのことで完成した。
 けれど、1年と2年では、1階と3階で、直ぐには会えないし、私は、彼の教室まで行くのが怖かった。

 彼のクラスに行ったら、自分を何と紹介しよう?
 彼と私は、知人ではあるけれど、そこまで親しい仲とは言えない。
 それに……。私は、私を案内してくれた時の彼を覚えているけれど、彼が私を覚えているとは思えない。

 私は、彼の教室まで行く勇気を出せなないまま、グラウンドで走りながら、音楽室の窓から彼が演奏する様子を見ていた。

 ずっと、ずっと……。
 私は、一歩も前に進めないまま、とうとう彼と別れる時が来てしまった。

 * * *

 空港に向かうバス停の前で、彼のクラスメイト達に混ざって、私は彼を見送った。

 何度も何度も書き直したラブレターをポケットにしまったまま、私は彼に渡せずに手が震えてしまった。
 彼はバスに乗り込むと、窓から私を見て、にっこり微笑んで手を振ってくれた。

「みんな。わざわざ、見送りに来てくれてありがとう。綾音ちゃんもありがとう!」

 彼が私の名前を呼んでくれた瞬間、私の胸は張り裂けそうなほど、感激して涙が溢れた。

「きっと、帰ってきて下さいね……」

 彼に私が伝えられたのは、これだけ。
 たったの一言だけ。
 彼を乗せたバスは、私たちを置き去りに、走り去って行ってしまった。

 名前を覚えてくれているのなら、もっと彼と親しくなっていれば良かった。
 泣いても泣いても、後悔ばかりが押し寄せて、私の心はボロボロにくずれてゆく……。
 だけど、もし、もしも、彼がまた日本へ帰って来られたのなら、その時は……。
 そう、もう一度、青春をやり直そう。
 私はポケットに手を入れて、誰にも見せることがなかったラブレターをグシャグシャに丸めた。

END

************************

あとがき

槇原敬之さんの「LOVE LETTER」を久しぶりにYouTubeで聴いて、インスピレーションを受けて書いた作品です。
槇原敬之の歌では、失恋で終わっていますが、この物語は、ほんのちょっとの希望を入れました。
恋愛物語なんて、あんまり書かないのですが……。
たまには、こういうのもアリですね。


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